生活している「場所」の充実と、そこから音楽という旅に出掛けていける「自由」。このふたつのバランスを、とても感じさせる新作の登場だ。
そこらへんの革ジャン着たロケンロ−ラ−の兄ちゃんより、百倍も自分の音楽スタイルに「こだわり」を持つ彼女が、ここにきて変化し続けていることに注目しよう。前作『Sanctuary』から、また新たな彼女の歴史がスタ−トしたこともあるけど、いっけん“らしからぬ”ものを“らしさ”に変える、そんなパワ−を感じる作品集である。曲調も多彩。例えば3曲目の「夢見る瞳」は、スティ−ル・ドラムの音も躍動するカリブ風味のダンス・チュ−ンである。「何曲かアレンジしてくださる萩田光雄さんにお渡ししたなかで、最初にあのトロピカルなアレンジがあがってきたので、“ここから(このアルバム)何処へいくの!?”って感じもあったんです。でも、そもそも曲を書いたのは私ですけどね(笑)。でも今回は、確かにリズムのメリハリがある曲が多くて、ボ−カルもそうなんですけど、ひとつひとつの音もすごく太いので、どんな曲調に挑戦しても、安心して出来たかなぁ、とは思います」
これまでの岡村孝子サウンドの特徴は、パッドを主体(シンセなどのコ−ドを長く響かせて、包み込むような印象を与える音作り)とした音の組み立てだったのと較べると、これは大きな変化だろう。
そして彼女は、今回のアルバムのひとつの核となるものを、こんな言葉で説明してくれた。
「それは…、80年代の感覚、なんですよね。私がデビュ−したのも80年代で、あの頃の音楽を色々と聴いて、ベ−スになっていると思いますし、今でも何か、聴き返そうと思ったときは、そこに戻っているので…。メロディもしっかりしてたし、今聴いても古いと感じない…。“そういうものをやりたいな”、というのは、あったかもしれないです。もちろん、それを昔をそのままやるのではなくて」 80年代のポップスというのは、今思えば楽曲ごとのコンセプトが明確なものが多く、また、今ほどアメリカン一辺倒ではなく、ヨ−ロピアンなものも多かった。それらが時代の寵児たるニュ−ウェイヴと合体し、その歴史や伝統が時代にマッチしたものにリニュ−アルされたのだ。実際のところ、岡村孝子自身も、デビュ−当時はヨ−ロッパ指向のア−ティストとして受け取られていた。
ただ、80年代がコンセプチュアルであったためか、あの時代に登場した人達は、時代とともに勢いを終えた場合も多い。息が長い活躍をするのは、むしろ70年代に登場した人達だ。そんな中、今も頑張り続ける岡村孝子は、希有の例かもしれないし、だから余計、さらにその先の自分を、時代とシンクロさせて行って欲しい。今回のアルバム中でも白眉な名曲「晩春」など聴くと、人生の機微が伝わり、得も言われぬ風合いを感じる。
「今回、“銀色の少女”という曲で、さださんとコラボレ−ションさせていただいて、さださんは本当に凄いなぁと思ったし、あと10年、20年頑張ったら、“自分もそこに行けるかな、行きたいな”とも思うなかで、(私がやれるのは)自分自身が人生を重ねてきたなかで感じたり見たりしてきたことを音楽に変えることだろうし、それを今回のアルバムでは出した積もりなんですね。それを聴いてくださった方達が、なにか私と想いを共有してくださったらと…」
では彼女に、一曲づつコメントしてもらうことにしよう。
小貫 信昭
「四つ葉のクロ−バ−」
四つ葉のクロ−バ−を見つけると幸福になる、という話のように、このアルバムを聴いて下さる方に幸福が訪れたらいいな、このアルバムを、傍らにおいてくださったらな、ということから、こんなタイトルにしました。ただ、この曲の歌詞にこの言葉は出てこないんです。でも、この歌で言いたいことを咀嚼すると、この言葉が一番合っているなぁって思って。曲が出来たのはこのアルバムのレコ−ディングの後半戦です。でも、この曲が出来たことで曲を作ることが楽しみに変わって、アルバムの完成まで辿り着けました。
「銀色の少女」
さださんは、わたしのなかで特別な存在で、さださんの音楽を聴いて私は音楽を始めたわけですから、まさに原点のような聖域のような、外から眺めて崇めている…、みたいな方ですから、こうやって私の名前が(作曲クレジットに)連なるなんて、思ってもみなかった事で…。でも、せっかく頂いた詞ですから、「それを壊してはいけない」と思って必死で歌った、そのなかのワン・テイクだけ、神様というか、さださんが“降りてきてくださった”かのようなものがあって、それを自分で聴いてみて、さらにこの詞の深さを知りました。
「夢見る瞳」
さっきもこの曲がトロピカルに仕上がった話はしましたが(笑)、そもそもこの曲でやりたかったのは、子供たちが楽しく輪になって歌えるような、そんな感じの曲だったんです。
「Tomorrow」
「銀色の少女」とこの曲にはハコ(加藤晴子)にコ−ラスで参加してもらいました。実は、彼女にこのアルバムの他の曲も含めて渡した時、「ハモりたい」って言ってくれたのは別の曲だったんですけど、詞がギリギリまで出来なくて、すでに出来ていた曲に参加してもらいました(笑)。あと、「四つ葉のクロ−バ−」とこの曲は、海老原真二さんのアレンジなんですが、歌っていてなんか、私自身が癒されるというか、音からマイナス・イオンが出ている感じがするんですよね。
「晩春」
20何年か前、初めて東京へ出てくる朝のことを思い出して書いた詞で、曲に関しては、もともと頭にあったのはガゼボの「アイ・ライク・ショパン」のような世界観。まさにさっきいった、私のなかの80年代的なものでした。でもこうして自分の身近なところからテ−マを見つけて…、ということを改めてやってみて、「私はこうやって、ずっと歌を作ってきたんだよな…」と思ったし、そこに戻れたのかもしれないですけどね。詞を乗せて歌入れが終わった時、今回、ミキシング・エンジニアを務めてくださった加藤謙吾さんが凄く褒めてくださって、私にはそれが、スタジオで泣きそうになるくらい嬉しかったです。
「フックエンド・マナ−の丘」(Album Version)
「夢をあきらめないで [逆境ナイン/リマスタリング・バージョン]」のカップリングでリリ−スした曲ですが、ここではコ−ラスを変えて、ミックスも変えています。タイトルのフックエンド・マナ−というのは、私が7年間、ロンドン郊外のチェッケンドンでレコ−ディングしてた時のスタジオの建物の名前です。そこでみんなとレコ−ディングした時の空気感は、今もずっと持ち続けて音楽を作っていますし、だから自分のなかにチェッケンドンは“在り続けるのもいいのかな?”という想いもあって出来た曲です。
「以心伝心」
この何年間か、「自分は何処に行こうとしてるのか? 何が歌いたいのか?」ということがぼやけてきてしまって、「自分は迷っているのかな?」とも感じていて、だから今回のレコ−ディングは自分探しの旅になって、重い曲も沢山集まるのかな、とも思ったんですけど、結局そうはならず、この曲のような踊っちゃえる曲も出来たんですけどね。
「聖域 〜sanctuary〜」(Album Version)
「春色のメロディー」のカップリングでリリースした時はパイプ・オルガンの音をメインにしたものでしたけど、今回はストリングスをメインにしたアレンジになっています。それと、“エンヤもどき”のコ−ラスを、自分の声を重ねて入れてみました。
「暁の空」
私的なバラ−ドを一曲書いておきたいなと思って作った曲ですね。ただ、この曲でアルバムを終えるか、次の10曲目で終えるのか、少し悩んだんですけど…。印象、全然違いますから。
「永遠の夏」
この曲の仮タイトルは、実は“湘南”で(笑)、「それを私がやるとどうなるのか?」というのがテ−マでした。私はずっと、アルバムの10曲目に“あかんべ−”をするような歌を入れてきたんですけど、前回はバラ−ドでそのまま終わってて、でも今回は、またそういうことがやりたくなって、これを最後に入れました。でも、もちろん“あかんべ−”といっても、実際にしてるわけではないですけど(笑)。ぜひライヴでやりたい曲ですよね。 |